ご覧の通り、決して美品とは言えないコンディションなのですが、こちらは当店では久々に入荷した"Cal.87"搭載モデルです。Facebook上にアップしたアルバムにはちょっとだけコメントを加えておきましたが、こちらは海外で入手したものではなく、店頭で一般のお客様からお譲りいただいたものです。このインターを持ち込まれた60歳代のご婦人「山田さん(仮名)」とお話してこの時計がどういった素性のモノなのか、いろいろとうかがってみるとなかなか興味深いエピソードが聞けました。
そもそもこの時計はそのご婦人の持ち物ではなく、亡くなったお父さんが所有していたものだそうで、山田さんによると物心がついた頃にはこの時計を着けているお父さんの姿がしっかり記憶に残っているとのこと。つまり、我々のような古時計を扱う店でこの10~20年の間に購入したようなモノではないということが分かります。この時計が製造されたのは1930年代後半ですが、その頃の日本は決して裕福とは言えない時代で、戦争による混乱状態もあったはずですから、そんな時代にこのような腕時計を所有していた人がこの日本にいたとは信じがたいくらいです。
新品で入手したのか、あるいは誰か別の人が持っていたものを譲り受けたモノなのか、そういった細かい部分については知る由もありませんが、いずれにしても大昔に日本へやって来た時計だということに間違いはなさそうです。1940年前後の当時、インターナショナルの時計が正式に日本へ輸入されていたのでしょうか?恐らくそんなことはなかったかと思います。正直その辺りはよく分かりませんが、山田さんのお父さんがどのようなお仕事をなさっていたのかというお話をうかがうとなんとなく納得出来ました。ご興味のある方にはその辺りのストーリーをお話しさせていただきます。
あえてここではその先の詳しい説明はしませんが、ずいぶんと昔にはるばる日本にやって来たこの時計がより貴重なモノに思えてきます。腕時計は決して場所を取るモノではありませんし、なによりご家族の思い出の品なのですから、売却などせずに大事に持っていらした方が良いのではないかとご提案しましたが、ただ持っていても仕方がないとのことで、結局お譲りいただくことになりました。
文字盤はご覧の通りで、かなりヤレていますし、リュウズもオリジナルではありませんでしたが、ムーヴメントの状態をチェックすると決して悪くありませんでした。文字盤も結構傷んでいる上に機械もサビだらけだったり、下手クソな整備を重ねてきてガタガタだったら、さすがにどうにもなりません。当初から文字盤をレストアすることを視野に入れていましたが、ひとまずそのままの状態で仕上げました。オーバーホールの際に少しマシなリュウズと交換し、ベルトはバネ棒式ではなかったので、別注製作したリザードのベルトを取り付けて店頭に並べています。
正直ひと目見てキレイとは言い難いコンディションです。しかしながら、当時こういった高級品を持っていた人は日本には何人もいなかったでしょうし、この日本で長い年月を経て現代まで生き残ってきたことにものすごく有り難みを感じます。なんというか、それこそロマンを感じずにはいられません。このインターナショナルの角型時計が持つ歴史やストーリーに共感していただけたら幸いです。。。
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