3/31/2012

グリュエンにうっとり

いつだったか修理のご依頼で預かった時計があまりにも素晴らしかったので、ここでちょっとネタにしたいと思います。このグリュエンの時計、腕時計ではなくてご覧のようなタイプ。文字盤のデザインがオシャレですねぇ。よくトラベルウォッチなんて言われたりしますが、まぁ一種の懐中時計のようなモデルです。モバードのエルメトなんかと同じジャンルになるかと思います。普通のケースにあたる部分をさらに覆う開閉式のケースがあるので、ムーヴメントや文字盤へのダメージを通常よりいっそう抑えることが出来るワケですねぇ。使う時だけデスクやテーブルの上、枕元なんかに置いたりして、その他の時はケースを閉じて持ち運ぶ。そんな使い方だったんでしょう。

腕時計に慣れてしまうとどうにも不便なんじゃないかと思いますが、当時にしてみればこれはこれで全然アリだったと思われ、大きな置時計は邪魔だし、好きじゃないなんて人だっていたでしょうから、こういう時計も結構な需要があったんではないでしょうか。

そんなこの時計、なんせやたらと状態が良かったんです。恐らくほとんど使われていないんじゃないかと思われるコンディションでした。修理のご相談にいらしたお客様によるとだいぶ前にニューヨークで購入したとのことでしたが、その時も多分特別整備されていなかったんじゃないかと思うほどの状態でした。ある程度メンテナンスを重ねてくるとムーヴメント自体、例えばネジの頭だとか、ブリッジなどにほんのわずかでも傷が付いたりするもので、いわばそれがある程度フツーだったりします。ところが、これはそれがほぼない。作りや仕様などから判断すると1930年代頃の製造ではないかと思われるので、当時から大事に保管されていたことが想像出来ます。分厚く、ガシッとした地板や受けなど、この年代の機械特有の作り込みに思わずうっとりさせられました。

グリュエンといえば、古くからスイスでの製造を行っていたブランドで、他のアメリカのメーカーとは異なる方向性だったことが特徴でした。このムーヴメントもクラシックなスイス時計らしい特徴がはっきり感じられる作りで、おまけにこの上ない美品でした。長期間ほったらかしだったことが原因による不具合でしたが、状態そのものは良かったので、オーバーホールすることで劇的に調子良くなりました。テンプ周りはいわゆるバイメタルテンプでブレゲヒゲというアンティークウォッチの王道を行くスタイル。恐ろしいほど美しいブルーの渦巻きに思わず吸い込まれそうになりました。。。

腕時計と比べるとやっぱりちょっと地味だし、あまり注目されていないジャンルだと思いますけど、その代わりこんな感じの超美品で雰囲気たっぷりのものが多少入手しやすいかも知れません。テンプ受けのこんな模様にもちょっとシビれてしまいます。ここだけは少しアメリカンな味付けにしたんでしょうかねぇ。とにかく、ホントにいい時計でした。。。






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3/11/2012

あれから一年

今日は3月11日。ちょうど一年前の今日、日本はそれまで経験したことのない大惨事に見舞われました。巨大な地震、さらに広範囲に渡るかつてない規模の大津波。そして、原子力発電所の事故。多くの尊い命が奪われ、今もたくさんの人々が辛い思いをしています。そのことを考えるとたまらない気分になります。いつの間にかあの日の前と何ら変わりない生活を送るようになり、うっかりすると忘れそうになりますが、まだ何も終わってはいません。

あの日、あらゆる面で当分の間とても厳しい状況になることが想像出来ました。正直お店を続けることすら難しくなるのではないかと覚悟しました。もちろんそれはいかなる状況でもあり得ることではありますが、直後は物凄く不安になり、つい悲観的に考えてしまいました。ですが、家や仕事を失っただけでなく、何より大切な家族を亡くした方々に比べたら、今もこうして目の前にやるべきことがあるのがいかに恵まれているのかということをつくづく感じます。

あらためて犠牲になった多くの方々のご冥福をお祈り致します。また、現在も大変な状況で生活している大勢の方々に心よりお見舞い申し上げます。




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3/04/2012

BRM

以前このブログで外装はモーレツに酷かったものの、ムーヴメントがやたらと美しかったので、思わず衝動的に入手してしまった角型時計のことを話題にしましたが、それと同タイプの機械を使った時計をちょっと前に入手しています。すでにウチの店のウェブサイト上でもご紹介しているので、ご覧になった方もいるかとは思いますが、あらためてネタにしたいと思います。

あのレヴューを入手した少し後、ロータリーの角型時計を手に入れる機会があったのですが、そのムーヴメントを見てビックリ。ワタクシが一目惚れしたあの機械だったのです。角型ムーヴメントにしては幅があり、その分普通の丸型の時計に近いような輪列だったりするのですが、同じように粒金仕上げなところも一緒でしたし、あらためて個人的には完全にドストライクであることを再確認しました。

レヴューの方は角穴車が鏡面仕上げになっていましたが、このロータリーの方にはマークなんかが刻まれています。その他テンプ受けなど、細かい部分は仕様に違いがあるものの、ワタクシのハートを鷲掴みにしてシビれさせたアンティークテイストはそのまんまでした。いわゆるデニソンケースはお約束の9金。ケースの傷がやや目立ちましたが、文字盤はわりとキレイだし、なにしろこのムーヴメントがイイ。というワケで早速手に入れることにしました。一見すると文字盤はフツーのプリントの全数字で面白味がないかも知れませんが、どことなくアメリカンウォッチとはまるで異なる風情です。やはりかつて英国市場で圧倒的な支持を誇ったロータリーだからなのでしょうか。

とにかく、この機械のレア度を考えてみるとある意味パテック・フィリップの"Cal.9-90"あたりの美品を探す方がむしろ簡単かも知れませんねぇ。そんなこの時計から滲み出てくるアンティークならではの香り。ハンパじゃございません。マキシマスなんていうペットネームも実にニクイ。まさに"Beautiful Rectangular Movement"な一本。いわばBRMじゃありませんか。そんなこのロータリー、実にオシャレです。





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