いつだったか修理のご依頼で預かった時計があまりにも素晴らしかったので、ここでちょっとネタにしたいと思います。このグリュエンの時計、腕時計ではなくてご覧のようなタイプ。文字盤のデザインがオシャレですねぇ。よくトラベルウォッチなんて言われたりしますが、まぁ一種の懐中時計のようなモデルです。モバードのエルメトなんかと同じジャンルになるかと思います。普通のケースにあたる部分をさらに覆う開閉式のケースがあるので、ムーヴメントや文字盤へのダメージを通常よりいっそう抑えることが出来るワケですねぇ。使う時だけデスクやテーブルの上、枕元なんかに置いたりして、その他の時はケースを閉じて持ち運ぶ。そんな使い方だったんでしょう。
腕時計に慣れてしまうとどうにも不便なんじゃないかと思いますが、当時にしてみればこれはこれで全然アリだったと思われ、大きな置時計は邪魔だし、好きじゃないなんて人だっていたでしょうから、こういう時計も結構な需要があったんではないでしょうか。
そんなこの時計、なんせやたらと状態が良かったんです。恐らくほとんど使われていないんじゃないかと思われるコンディションでした。修理のご相談にいらしたお客様によるとだいぶ前にニューヨークで購入したとのことでしたが、その時も多分特別整備されていなかったんじゃないかと思うほどの状態でした。ある程度メンテナンスを重ねてくるとムーヴメント自体、例えばネジの頭だとか、ブリッジなどにほんのわずかでも傷が付いたりするもので、いわばそれがある程度フツーだったりします。ところが、これはそれがほぼない。作りや仕様などから判断すると1930年代頃の製造ではないかと思われるので、当時から大事に保管されていたことが想像出来ます。分厚く、ガシッとした地板や受けなど、この年代の機械特有の作り込みに思わずうっとりさせられました。
グリュエンといえば、古くからスイスでの製造を行っていたブランドで、他のアメリカのメーカーとは異なる方向性だったことが特徴でした。このムーヴメントもクラシックなスイス時計らしい特徴がはっきり感じられる作りで、おまけにこの上ない美品でした。長期間ほったらかしだったことが原因による不具合でしたが、状態そのものは良かったので、オーバーホールすることで劇的に調子良くなりました。テンプ周りはいわゆるバイメタルテンプでブレゲヒゲというアンティークウォッチの王道を行くスタイル。恐ろしいほど美しいブルーの渦巻きに思わず吸い込まれそうになりました。。。
腕時計と比べるとやっぱりちょっと地味だし、あまり注目されていないジャンルだと思いますけど、その代わりこんな感じの超美品で雰囲気たっぷりのものが多少入手しやすいかも知れません。テンプ受けのこんな模様にもちょっとシビれてしまいます。ここだけは少しアメリカンな味付けにしたんでしょうかねぇ。とにかく、ホントにいい時計でした。。。
Horol International
twitter
facebook
mixi page