今日ウチの店のサイトにアップした時計のことをちょっと書いてみたいと思います。この"HELVETIA"というブランドの時計。あまり聴き馴染みのない名前だと感じる方も多いかと思います。実際我々でもめったに取り扱うことはありませんし、ほとんど無名と言っていいでしょう。こういうものほど評価してあげる人がいないと埋もれてしまい、結局価値もつかずにどんどん記憶に残らない存在になってしまうもの。ところが、マイナーだからといってチープな時計ばかりとは限りませんし、案外メジャーなもの以外にも素晴らしい時計が多く残っていたりするのです。これもそんないい例かも知れません。なので、ちょっとネタにしてみます。
この「ヘルヴェティア」というメーカー、古くは19世紀末に始まって少なくとも1950~60年代頃までは存在していたようです。しかも、パテック・フィリップやジャガー・ルクルトなんかの超メジャークラスと同じようにムーヴメントの製造も手がけていた本物の時計メーカーだったのです。クロノグラフこそないようですが、シンプルな手巻きはもちろん、自動巻きのムーヴメントも作っていたようです。なので、現在はほぼ無名の存在ではありますが、実際はそこそこ中堅どころのポジションだったのではないでしょうか。
そんなヘルヴェティアが第二次世界大戦中に手がけたモデルのひとつがこれで、ドイツ陸軍向けに作ったものです。メッキのケースで裏蓋はステンレススチールのスクリュウバック。黒文字盤にルミナスハンドという、完全に「軍用」って感じの仕様です。ケースの一部に少し剥げている箇所があったりはしますが、全体的には十分なコンディションを保っています。ところで、当時のドイツといえばヒトラーのナチス政権下ですよねぇ。その所業の数々は歴史的に最も忌まわしい出来事のひとつとして認識されていますが、そのせいもあってか、当時のドイツの軍用時計はあまり現存していません。単純にまともな状態のものが残っていないからだと思いますが、悪しき記憶を呼び起こさせる時計ということであまり歓迎されないところもあるような気がします。
その頃のドイツは資源を軍需産業へ集中させるために時計に関してはスイスからの輸入に依存していたそうですが、日本と同様にドイツも戦争が長引いてくると物資の不足が深刻になり、結果的に軍用時計もよりチープなものになっていったようです。そんな中、ちょっと驚かされるのは同時代のアメリカの軍用時計にはない耐震装置が備わっているところです。他のブランドの時計では見ない変わった形のショックバネがついていますが、ヘルヴェティアはいち早く耐震構造を取り入れ、さらに当時のドイツもそれを採用していたというわけで、そう思うとなかなか興味深いものです。ひょっとするとこの時計が作られた頃は戦況が好調だった時期のものなのかも知れません。
いずれにしてもこの時計のムーヴメントを見ているとロンジンあたりを彷彿させるオーラを放っています。ビカビカに輝くって感じのストライプ仕上げではありませんけど、実際質感はいいし、重厚な作りでまったく安っぽい印象は受けません。ヘルヴェティアは単なる並み以下のマイナーな時計メーカーではなかったことがビシビシ伝わってきます。この画像をよく見るとブリッジには"GENERAL WATCH CO"と刻印されていることに気付くかと思います。これはムーヴメントが何か別のものと入れ替わってしまっているわけではなく、"HELVETIA"というのがいわばブランドネームだったことを意味します。つまり、「ジェネラル・ウォッチ」というのが正式な社名だったということでしょう。セイコーのクレドールみたいなもんでしょうか。いずれにしてもしっかりした良いムーヴメントだと思います。
実はワタクシ、軍用時計に対しては常にどこか複雑な気持ちだったりします。単純にカッコいいので好きなのですが、一方で戦争をするための道具だったというところが何となく引っかかってしまうのです。もちろん、銃や大砲のような武器ではありませんけど。それにましてや昔のドイツの軍用なんていうと悪魔の手先みたいなイメージなのです。だからっていうわけではありませんが、実はこれまでドイツものに関してはあまり積極的ではありませんでした。過去にさんざん軍用時計を扱っておきながら、何を今さらって感じもしますが、実はドイツの軍用時計はわりと避けていたところがあります。とはいえ、時計には何の罪もありませんからねぇ。このヘルヴェティアはたまたま機会があって入手することになったってわけです。罪を憎んで時計を憎まずってところでしょうか。詳細はこちらでご確認いただけます。まぁとにかく、ご興味のある方は是非店頭でご覧下さい。
~おまけ~
昔の広告に載っていたこんなモデルもいいですよねぇ。ブレゲ数字っぽい感じで可愛らしい書体のインデックスにブレゲ針。う~ん、シビレます。あと今なら針を大体10時8分くらいの位置にするのが普通ですが、よく見るとこれは9時12分くらい。なんかヘンです。
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9/25/2010
9/18/2010
Message In A Watch
久々のブログです。モーレツに暑かった今年の夏もいい加減そろそろ終わりですかねぇ。まだまだ残暑厳しい毎日ですが、だんだん秋の気配を感じるようになってきました。夜になるとちょっとだけ涼しげな風が吹き、どこからか鈴虫が鳴いているのが聞えてくるようになりました。そんな今日この頃、珍しく時計屋らしく時計のネタを少々。
年代物の機械式時計の中でバツグンの知名度を誇るオメガですが、言わずと知れた30ミリキャリバーは何かと評価も高く、実際コンディションが良ければ安定した精度も期待出来ます。バリエーションも豊富で、流通量もそこそこなので、手頃な価格で入手出来る場合も少なくありません。一部の軍用時計、その他ランチェロやレイルマスターなどのレアモデルは別格ですが、そうでなければそれほど高額になることはないので、一定の人気があります。そんなわけで、当店でもこれまでかなりの本数を取り扱ってきています。
先日オーバーホールの依頼でオメガの軍用時計をお預かりしました。いわゆる30mm系のムーヴメント"Cal.30T2"を搭載した英国陸軍用で、文字盤には大きなスモールセコンドがレイアウトされたあのモデルです。この機種も以前は相場的に結構リーズナブルなものが多かったのですが、やはりそこは軍用なわけで、今や美品を入手するのは簡単ではなくなってきています。今回お預かりしたものは持ち込まれた段階ではまったく動かない状態で、相当長い期間ほったらかしにしたままだったとのことでした。ケースにもサビが出ていましたが、ムーヴメントをある程度分解してみると内部にもサビが出ている箇所が結構ありました。当然オイルは残っていないし、完全に汚れた状態。これじゃ全然動かなくても仕方ないよねぇっていう感じでした。
ゼンマイの入る香箱を外して地板を見るとそこには何者かが残した謎のメッセージが刻まれているじゃありませんかっ!恐らくかつて整備をした誰かがサインをしたのでしょう。最初何かの暗号かと思ってしまいましたが、よくよく見てみると"1-11-74"と刻まれています。きっと1974年1月11日ってことでしょう。あとはイニシャルか何かですかねぇ。以前も裏蓋の内側に書かれたサインについてブログのネタにしたことがありましたけど、ムーヴメントそのものに直接日付なんかを残すっていうパターンはなかなか興味深かったので、思わず写真を撮ってしまいました。
でも、ムーヴメント自体にわざわざ傷を付けるのはどうなんでしょう。整備した日付なんかが分かるようにするのなら、全バラしないと見えないような場所にするべきではないでしょうし、やっぱりワタクシ的にはいかがなものかと思ってしまうのです。とはいえ、これがこの時作業したその人のスタイルだったんでしょうねぇ。とにかく、良い悪いは別としてこれってちょっと珍しいと思いました。
ところで、このオメガ、当初はまったく動きませんでしたが、オーバーホールの際に新しいゼンマイと交換し、多少の加工調整を行い、すっかり生まれ変わったかのように調子良く動いてくれるようになりました。およそ60年も前に作られた時計で、完全に動かなくなっていたとしてもこんな風に結構ちゃんと使えるようになるもんです。そんなところも含め、過ぎ去った長い月日を感じさせてくれるところが古時計の一番の魅力じゃないでしょうか。
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年代物の機械式時計の中でバツグンの知名度を誇るオメガですが、言わずと知れた30ミリキャリバーは何かと評価も高く、実際コンディションが良ければ安定した精度も期待出来ます。バリエーションも豊富で、流通量もそこそこなので、手頃な価格で入手出来る場合も少なくありません。一部の軍用時計、その他ランチェロやレイルマスターなどのレアモデルは別格ですが、そうでなければそれほど高額になることはないので、一定の人気があります。そんなわけで、当店でもこれまでかなりの本数を取り扱ってきています。
先日オーバーホールの依頼でオメガの軍用時計をお預かりしました。いわゆる30mm系のムーヴメント"Cal.30T2"を搭載した英国陸軍用で、文字盤には大きなスモールセコンドがレイアウトされたあのモデルです。この機種も以前は相場的に結構リーズナブルなものが多かったのですが、やはりそこは軍用なわけで、今や美品を入手するのは簡単ではなくなってきています。今回お預かりしたものは持ち込まれた段階ではまったく動かない状態で、相当長い期間ほったらかしにしたままだったとのことでした。ケースにもサビが出ていましたが、ムーヴメントをある程度分解してみると内部にもサビが出ている箇所が結構ありました。当然オイルは残っていないし、完全に汚れた状態。これじゃ全然動かなくても仕方ないよねぇっていう感じでした。
ゼンマイの入る香箱を外して地板を見るとそこには何者かが残した謎のメッセージが刻まれているじゃありませんかっ!恐らくかつて整備をした誰かがサインをしたのでしょう。最初何かの暗号かと思ってしまいましたが、よくよく見てみると"1-11-74"と刻まれています。きっと1974年1月11日ってことでしょう。あとはイニシャルか何かですかねぇ。以前も裏蓋の内側に書かれたサインについてブログのネタにしたことがありましたけど、ムーヴメントそのものに直接日付なんかを残すっていうパターンはなかなか興味深かったので、思わず写真を撮ってしまいました。
でも、ムーヴメント自体にわざわざ傷を付けるのはどうなんでしょう。整備した日付なんかが分かるようにするのなら、全バラしないと見えないような場所にするべきではないでしょうし、やっぱりワタクシ的にはいかがなものかと思ってしまうのです。とはいえ、これがこの時作業したその人のスタイルだったんでしょうねぇ。とにかく、良い悪いは別としてこれってちょっと珍しいと思いました。
ところで、このオメガ、当初はまったく動きませんでしたが、オーバーホールの際に新しいゼンマイと交換し、多少の加工調整を行い、すっかり生まれ変わったかのように調子良く動いてくれるようになりました。およそ60年も前に作られた時計で、完全に動かなくなっていたとしてもこんな風に結構ちゃんと使えるようになるもんです。そんなところも含め、過ぎ去った長い月日を感じさせてくれるところが古時計の一番の魅力じゃないでしょうか。
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