最近店頭である時計を買い取らせていただいたのですが、その時計に少々問題があり、久々にヒヤヒヤする羽目になってしまいました。
その時計、実はケースが開きませんでした。時計を入手する際には基本的には外観だけでなく、内部のムーヴメントもコンディションを見てある程度正確に判断すべくチェックするものなのですが、その時計は面白いくらいウンともスンともいわない状態でした。
いわゆるスクリュウバックの防水型ケース。フツーは一番簡単なハンドオープナーで開閉出来ることがほとんどなのですが、その時計は驚くほど頑固で、まるで裏蓋が開けられるのを拒んでいるかのような状態でした。この写真に写っているハンドルがついたオープナーやさらにもう少し大型のタイプなども使ってハァハァ言いながら、何度もトライしてみましたが、まったく開く気配すらしません。これまでにも経験していますが、一筋縄ではいかないパターンだとすぐ判断し、そのことを説明させてもらいました。通常ムーヴメントもチェックした上で最終的に買取金額をお知らせするところなのにそれが出来そうにないので、その分金額を低くさせていただくことを提案したところ折り合いがついたので、結局内部の状態は確認せずに譲っていただくことになりました。
このまま裏蓋がまったく開かないとか、ケースやその他の部分を破損させてしまうとか、そういったトラブル発生のリスクが正直心配です。一抹の不安もありましたが、最悪でも針やリュウズや内部のムーヴメントなど、パーツ自体は何らかの形で利用することも可能ですから、とりあえずそれで良しと考えたワケです。
こういった場合、まずケースをCRC5-56に浸してみるところから始めます。ワタクシが知っている最も効果的な方法がこのやり方なのですが、1日経ってトライしてみると最初とまったく変わらない状態で、やっぱりウンともスンとも状態でした。さらにもう1日、南蛮漬けのように浸けこんでみて翌日試してみるとやっぱりダメ。その翌日もダメ。結局、ワタクシの身体が変な筋肉痛になっただけでした。
きっと裏蓋に汗なんかも染み込んで激しく錆びているに違いありません。パッキンもガビガビになっているはず。もうこうなると奥の手を使うしかありません。最終手段、ガスバーナー登場です。炙りサーモンのにぎりを作る時にも使えますが、当店ではこういうスクランブル発進の時たまに使う、まさにリーサルウェポン。ガチガチに固まった頑固者の裏蓋をバーナーの熱で和らげるワケです。
大抵この方法で開けられるはずなのですが、その代わり激しい高熱を加えることでムーヴメントだけでなく、大事な文字盤や針にも何らかのダメージが出てしまう恐れもあり、結構なリスクを伴います。裏蓋は開いたけど、文字盤がドロドロになってしまっては元も子もありません。出来ればやらずに済ませたかったのですが、もうこうなると他の手段は選べません。イチかバチか、もはやギャンブルのようなもんです。
祈るように青い炎をケースバックに向けて熱すること数回。一気にはやらず、少しずつ熱を加えてみましたが、祈りが通じたのかなんとか文字盤への影響もなく、無事裏蓋が開いてくれました。今回はうまくいきましたが、今後もすんなり出来るとは限りません。なるべくならこんなことをせずに使っていきたいものです。聞けばこの時計、20年ほど前に入手してから一度もオーバーホールもしたことがなかったそうです。これまでに一度でも整備していれば、その時に裏蓋も開けますから、これほどの状態にはならずに済んだかも知れません。何となく調子良く動いているように見えてもこんな問題が発生することもあるのです。やっぱり、古時計には定期的なメンテナンスが欠かせませんねぇ。そんなことを再確認した今日この頃です。。。
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